• title: 生きていくためのクラシック
  • authors: 👨許光俊

Literature Notes

🔦「世界最高のクラシック」とは生が生きるに値すると納得させてくれるもの - 許光俊

私の生は, もう十分に退屈で, つまらない. 平凡で, 卑俗だ. 生が何が何でも生きるに値するものとは, どうしても考えられない.

もっとも, このような思いは, 死を真近に控えつつある人からすれば, 腹が立つほどの戯言だろう. 文明社会の都市文化に青白く咲く, デカダンなセンチメントに過ぎないであろう. とはいえ, 私がこのような思いを吹っ切れないのも事実なのである. 翻ってこう反論することも可能ではないか. 肉体的に生存することが困難でない状態にいるからこそ, 「生は生きるに値しない」という思いはいっそう純粋なのだと.

私が生きながらえている最大の理由は, なんとなく死が怖いからに過ぎない. そして, 生が何が何でも生きるに値するものとはどうしても考えられないが, 死が何がなんでも死ぬに値するものとはどうしても考えられないからに過ぎない.

それゆえに, 私は, そのつまらない生を, たとえ束の間であれ, 生きるに値すると思わせてくれるものを求めずにはいられないのである.

かつてチェリビダッケやヴァントが指揮するものすごい演奏に遭遇したとき, 私は心底, 「このようなものを聴けるのだったら, 生は意味がある. 豊かである. このようなものが聴けるとは幸福以外の何物でもない」と思い込むことができた. 彼らの次のコンサートを聴くまでは, 絶対に死ねないと思った. 愚かさと悲惨さにあふれた世界の中に, たとえごくわずかであろうとも, すばらしい驚異が存在すると信じることができた.

私にとって, 「世界最高のクラシック」とは, 生が生きるに値すると納得させてくれるものなのだ.

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